|
久々に心地よい興奮状態に浸っている。うーん、カッコいい!これぞ、日本のロックのアルバムなんじゃないだろうか。仕事柄、年に数百枚の新作CDを聴くが、こんな気持ちにさせられる作品には、なかなか出会えるもんじゃない。だがOWLには過去のアルバムでも、こういう思いを味わわせてもらった。改めて素晴しい音楽家達なのだと、再認識している。
前作『ループ・ザ・ループ』から、約2年半ぶりのリリース。この2年半には、いろんなことがあった。まず、ベースの松井敬治が脱退した。それを機にレコード会社やマネジメント・オフィスからも離れ、菜摘げんたと伊藤保のふたりになったOWLは、新たにドラムに柳原勇作を迎え、3人で改めて新生OWLの音楽を模索し始めた。地元関西で、ライブ活動を続けながらデモ・テープを作り、昨年の後半ようやくレコーディングを開始、『あしたは晴れる』が完成した。そして聴いてみたら、冒頭のごとくなのである。
前作は脱退した松井敬治のプロデュースで、どちらかというとギター・サウンドを前面に押し出した、グランジっぽい作りだった。今にして思えば、それはかなり彼のプロデュース・ワークに負う部分が多かったようだ。というのも、今作はそれとはガラリと色を変え、メロディーとげんたの歌声と歌の言葉を大切にした作り。サウンドもデジタルなものと生音を融合させ、しいていえば彼らのファースト・アルバムに立ち返った感がある(とはいっても、逆戻りしたとか退行したという意味ではない。念のため)。そしてそれもそのはずで、今回はそのファースト・アルバムでプロデュースを手がけた井上鑑と再び手を組み、彼のプロデュースで作られているのだ。
冒頭に”これぞ、日本のロック・アルバム”といったが、そう思わせるのはメロディーと歌の言葉である。楽曲によっては、どこか日本のトラディショナルやわらべ歌を思わせるようなメロディーも多分に含まれ、また歌の言葉も”そぞろ””いや増す””いみじき””天翔ける””紡ぐ”など、少し古めかしく思えるほど、日本情緒あふれる言葉も使われている。そしてそんなメロディーと言葉が合体した時、そこに生まれるのが叙情フォーク的なものではなく、ブリティッシュの香りも感じさせるロックなのが、OWLの素晴しさであり、それは日本人ならではのロックといってしまっていいと思う。”ロック”とあえていったが、べつに”ロック”だからいいという価値観を持っているつもりは毛頭ない。これを聴いてポップスと思う人はそれでいいと思うし、事実ポップスといってもいいかと思える、軽くはじけた楽曲も入っている。だが、なぜあえてここでロックといいたくなったかというと、げんたのヴォーカルの力強さとサウンドの持つエネルギーに、インパクトを受けたからにほかならない。
彼のヴォーカルはどちらかといえば細く、さらにウェットな質感を持っていて、特に日本情緒を感じさせるメロディーや言葉を歌うと、ヘタをすると叙情フォークにもなりかねない。だがそんなムードはみじんもなく、その歌声は繊細さをともないながらも力にあふれ、そのサウンドもどっしりとした重量感を持ち、また楽曲によってはどろっとしたうねりをも見せ、楽曲とげんたのヴォーカルが作り出す世界観を、さらに強力にサポートしている。
ポップな楽曲や一見ロックっぽい楽曲は、小手先でいくらでも作れる。だがその底の浅さはすぐに露呈してしまう。自らの血肉から生まれたロックやポップスには、そんなものが束になってもかなわない底の深さがある。そしてそれを今、『あしたは晴れる』に感じている。
音楽ライター
角野恵津子
|