Bluegrass Unlimited 誌(USA) 2004年3月号より
マンドリニスト宮崎勝之のこのインストアルバムのどういう部分に最も感銘を受けているのか,うまく言い表せない。クリーンで丸みを帯びたトーンやクリエイティヴィティを追求する上で必要なスピードと巧さといったテクニックが実にしっかりしている。これは常に重要なことだ。テクニックがなければ,残りの部分が無意味になってしまうから。と同時に,テクニックをほめることは,大工に向かって「いい板材を使っているね」と言うようなものだ。宮崎が 素晴らしいテクニックを持っているのは当然であり,そうでなかったらレコーディングなどしていないはずなのだ。それでも私は,速いマイナーキーの "Hidin' In The Bush" や "Forked Deer" 特に後者のセカンドソロで宮崎が示した能力の高さに強く印象づけられる。
おそらく,彼が駆使するスタイルの幅広さを賞賛する方がいいのかも知れない。だがそれも,しばしば自分自身のサウンドを定義できないということを匂わせるという意味で,問題になるかも知れない,しかしながら,ここでもまたそれは問題ではないのだ。"First Day Of June" の古いマウンテン・サウンド から"Go Hither To Go Yonder" のモンロー・アプローチへ,あるいは"New World" の印象派の水彩画のようなタッチからモダンな"Be Good For Pain" の 揺れ動く緊張と緩和へと移っていく宮崎の能力は,それぞれのカットに彼が持ち込んだ個性によってさらに(その魅力が)高められている。
この個性が彼の作品を生み出したのである。10曲中,宮崎は8曲を書いている。音階練習のように聞こえる曲,不合理で散漫な曲,あるいはメロディが欠如しているような曲は,一切ない。それどころか,6/8拍子のアイリッシュ・リルトの"Dance of The Cricket," サンバのようなフィーリングを持つ"Butterbur Sprout," 前述の水彩画のような"New World," そして,古くもありまた同時に現代的なサウンドのフィドル・チューンなどが収録されている。どれがどれだ ったか区別がつかないようなインストアルバムがあまたあることを考えると,このような際だったオリジナル作品は注目に値する。
しかし,本当に言いたいのは次のことである。作曲と演奏の深み(ギタリストのデヴィッド・グリア,バンジョー奏者のスコット・ヴェスタル,フィドラー のオーブリー・ヘイニー,ベーシストのヴィクター・クラウスの素晴らしいサポートも含めて)を聞くと,いくつかのベスト・コンテンポラリー・マンドリ ン・アルバムのことを考える。そして,この宮崎のアルバムはそれらに迫るものであると気づく。おそらくこのことが最も感銘を受ける点なのだ。